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2026-09-04

建設業のAI活用事例 ── 現場ではなく「事務所」から始める業務効率化

建設業のAI活用事例を検索すると、ドローンの測量、現場写真の自動仕分け、施工管理アプリ、安全管理のカメラ。こうした現場寄りの話が並びます。

ただ、社員10〜80名の工事会社で粗利を削っているのは、たいてい現場ではありません。事務所です。書類、請求、入金の確認、そして毎月出ていく外注費。

取り上げるのは2社です。1社は稼働中で、受注から入金確認までと広報を内製に戻しました。もう1社はまだ止まっています。社長は前向きなのに進んでいません。その理由も含めて書きます。

建設業のAIが「現場」の話ばかりになる理由

理由は単純で、記事を書いているのが施工管理ツールや測量機器のベンダーだからです。売りたいものが現場にあれば、書く事例も現場になります。

現場のAIが役に立たないという話ではありません。ただ、最初の一手としては重いのです。

一方で、2024年問題以降に増えたのは書類のほうでした。時間外労働の上限規制に対応するため、勤怠の記録は細かくなりました。元請からの提出物も増えています。安全書類、施工体制台帳、作業員名簿。現場の残業を減らしたぶん、管理の手間が事務所に積み上がりました。

しかも工事会社の事務は、たいてい1〜2名です。増えた仕事を吸収する余裕がありません。結果として、社長や工事担当者が夜に書類を作ることになります。

この領域は、試すハードルが低いのが利点です。元データはすでに社内にあり、工事を止める必要がなく、効果は翌月の作業時間で測れます。

まず数える ── AI導入の予算は外注費が教えてくれる

AI導入を検討するとき、多くの経営者が「いくらかかるのか」から入ります。順番が逆だと考えています。先に決めるべきは、いくらまで払ってよいかです。

そして、その上限はすでに手元にあります。毎月払っている外注費です。

数える対象は、たとえばこのあたりです。

外注先よくある月額内製に戻せるか
事務代行・記帳代行5〜20万円戻せる部分が多い
給与計算の代行2〜5万円一部
ホームページの更新・広報記事3〜10万円素材出しだけ社内に残す形で戻せる
請求・入金管理の代行5〜15万円戻せる

後で紹介する塗装・防水工事の会社では、事務の代行と発信の外注を合わせて、年間250万円ほどを支払っていました。この金額が分かった時点で、判断はほぼ済んでいます。年250万円出ていくものを止められるなら、その範囲の投資は検討に値する。ここで話が感覚から引き算に変わります。

数えると、たいてい「思っていたより多い」という反応が返ってきます。1件ずつは小さくても、年で足すと社員1人分に近づくからです。

事例1:塗装・防水工事会社 ── 受注から入金確認までを一本に

何を自動化したか

自動化したのは、次の一連です。

  1. 客先から届いた注文書を読み取る
  2. 請求書の形にする
  3. 請求リストを作る
  4. 支払通知書と照合する
  5. 入金を確認する

肝は、単発で切らなかったところにあります。注文書の読み取りだけを自動化しても、その先の請求と照合が手作業なら、詰まりの場所が下流に動くだけです。担当者の実感としては「あまり楽になっていない」となります。

紙が入ってくるところから、お金が入ったと確認できるところまで。ここを一本でつないで、はじめて外注していた業務を引き取れます。

効果

構築におよそ3か月、投資の回収は約半年でした。外注していた事務の大半が社内に戻っています。

派手な数字ではありません。ただ、工事会社にとって「毎月出ていくものが止まった」は分かりやすい成果です。売上を1割伸ばすより、確実で、早いです。

戻した後の役割分担も決めました。機械が作るのは、請求書の下書きと、照合の結果一覧まで。金額の最終確認と、取引先への送付は人が行います。全部を任せてしまうと、間違いに気づくきっかけが無くなるからです。確認する工程をどこに残すかは、業務ごとに決める必要があります。

契約のほうにも工夫がある

この案件では、支援の金額を、削減できる外注費を前提に決めました。さらに契約書には、6か月の時点で削減効果が想定を下回った場合、先方から減額を申し入れできる条項が入っています。

支援する側にとっては、なかなか怖い条項です。それでも入れたのは、効果が出なければ払う意味がないという話に、こちらも同意しているからです。逃げ道を残さないほうが、双方の目線が「使ったかどうか」ではなく「効果が出たかどうか」に揃います。

導入支援を検討するとき、「効果が出なかったらどうなるか」を先に聞いてみるといいと思います。答え方に、その会社の姿勢が出ます。

事例1のつづき:広報を外注から内製に戻す

効率化だけでは粗利は増えません。出ていくお金は減りますが、入ってくるお金は変わらないからです。そこで同じ会社で、集客の発信も内製に戻しました。

やったこと

まず、過去に外注して作った記事25本と、現場写真286枚を回収しました。これを文体・構成・言い回しの基準にします。外注をやめると発信の質が落ちるのが普通ですが、過去の成果物を基準として残せば、そこは守れます。

社長の作業は3つだけにしました。

あとは記事の下書きが出来上がります。自動では投稿しません。下書きまでを機械が作り、公開するかどうかは人が決める形にしています。工事の内容が事実と違っていたら信用問題なので、ここは人の目を通します。

効いたのは「言葉を選び直したこと」

意外に思われるかもしれませんが、いちばん効いたのは技術ではなく、狙う言葉の入れ替えでした。

この会社は床の樹脂施工も手がけていて、その工法名で記事を書くつもりでいました。調べてみると、その言葉を検索しているのは、ほとんどが手芸や日曜大工の人たちだったのです。アクセサリー作りや100円ショップの材料を探している層で、工場や店舗の床を発注する人ではありません。書いても客は来ません。

そこで、防水と雨漏りの周辺に寄せ替えました。こちらは検索する人が多く、しかも同業の記事が薄い領域でした。床の施工についても、実際に発注者が使う別の言葉が見つかったので、そちらを受け皿にしています。

地域名と工法を組み合わせた言葉は、問い合わせにつながりやすい傾向がありました。「その地域で、その工事を、今まさに探している人」だからです。

つまずいたところ

素材が足りませんでした。本命に据えた防水と雨漏りの現場写真が手元に薄く、記事にしたくても素材が無い状態が続きました。撮っておけば資産になるという話を、先にしておくべきだったと思います。

もう一つは数字の扱いです。費用の相場や耐用年数は一般的な目安になってしまうため、公開前に必ず社長本人が確認する運用にしました。ここを機械任せにすると、事実と違う記述が世に出ます。

事例2:公共土木・舗装の会社 ── 社長は前向きなのに、止まっている

こちらはまだ導入していません。商談の途中で止まっています。

山口県で公共土木と舗装を手がける会社です。社長にオンラインでご説明し、生成AIとAIエージェントの違い、実際の処理の様子、他社の事例をお見せしました。反応は良く、導入に前向きなお返事もいただいています。

困りごともはっきりしていました。注文書と請求書の手入力です。次にやることも決まっていました。自社の書類を使った無料のデモです。

商談で見せた4つの処理

参考までに、この場でお見せしたものを挙げておきます。いずれも実際の作業を録画したものです。

処理内容人手AI
PDFから一覧表メーカー3社のカタログから型番情報を抜き出して比較表に約2時間約10分
Web情報から一覧表ある展示会の出展325社を項目ごとに整理数日約15分
音声からマニュアル現場インタビュー約2時間の録音を業務マニュアルに20時間級約3時間
ブラウザの自動操作入力フォームと集計表を作り、動作確認まで

工事会社に刺さるのは3番目でした。ベテランの作業を録音して、そのままマニュアルにできる。技術継承の話として受け取っていただけます。

それから2か月、動いていません。

止まっている理由は技術ではない

商談の場で社長が口にした懸念が、そのまま理由になっています。社員の高齢化です。

高齢の社員が多く、「AIは自分たちの時代のものではない」という空気がある

社長がどれだけ前向きでも、現場がそう受け取っていれば、デモの日程は後回しになります。誰も反対していないのに進まない、という状態です。県内に気軽に相談できる相手がいないことも、後押しが効かない一因だと見ています。

この場合の打ち手

一般的なデモ動画では足りません。効くのは、自社の書類が処理されるところを見せることです。他社の事例は「よその話」で終わりますが、見慣れた自社の注文書が目の前で一覧表に変わると、受け取り方が変わります。

もう一つは、順番です。高齢の社員が多い会社では、全員に説明する前に、事務担当や若手の作業を先に楽にします。そのうえで「あの人の仕事が実際に減った」という事実を社内に見せる。空気は説明では変わりませんが、身近な実例では変わります。

この案件から学んだのは、決裁者の前向きさと、現場が動くかどうかは別だということです。導入が止まるとき、原因はたいてい技術ではありません。

建設業でAIが効く業務・効きにくい業務

支援する立場で書きにくい話ですが、向き不向きははっきりしています。

効く業務

効きにくい業務

元請ごとに様式が違う提出書類は、実は効果が出やすい領域です。人がやると、どの元請がどの欄を求めるかを覚えている担当者しか処理できません。様式ごとの必須項目を一度書き出しておけば、抜けのチェックは機械に任せられます。ここは属人化がきれいに解ける例でした。

積算については、下ごしらえまでが現実的だと考えています。過去の類似工事を引っ張り、数量を拾い、たたき台を作るところまで。最終的な数字は人が決めます。ここを丸ごと任せられると説明する相手には、根拠を確かめたほうがいいです。

進め方 ── 3か月で1テーマ

STEP1|外注費と事務作業を数える

1年分の外注費を書き出します。同時に、事務所で誰が何にどれだけ時間を使っているかも大まかに拾います。

STEP2|連鎖の中でいちばん上流を1つ選ぶ

注文書、請求、入金確認と続く流れなら、入口から取ります。下流だけ直しても詰まりは動くだけです。

STEP3|自社の実物書類で試す

サンプルではなく現物を使います。元請ごとの様式の違いや、手書きの追記といった現実は、実物にしか現れません。

STEP4|手順書を残す

作った人しか動かせない状態にしないため、手順書まで作ります。属人化を解消するために始めたのに、新しい属人化を作っては意味がありません。

社員の平均年齢が高い会社では、この4ステップを事務担当か若手から始めてください。全社への説明は、実物ができてからのほうが早く進みます。

よくある質問

Q. パソコンが苦手な社員が多いのですが

事例1では、社長の作業を3つに絞りました。フォルダをコピーする、ひと言メモを書く、写真を入れる。この程度まで削れば、日常業務の延長で回ります。全員に覚えてもらう必要はありません。

Q. 何名規模から効果が出ますか

人数より、同じ形の作業が月にどれだけあるかで決まります。注文書が月100枚あれば、社員10名の会社でも十分に効果が出ます。

Q. 費用はどのくらいですか

会社ごとに違うため一律には出せませんが、考え方は本文のとおりです。今払っている外注費が上限の目安になります。診断でその金額を一緒に数えるところから始めます。

Q. 元請ごとに様式が違いますが対応できますか

できます。むしろ様式がばらばらな会社ほど、人の手間が大きいぶん効果も大きくなります。実物の書類で試すのは、この違いを最初に織り込むためです。

Q. 情報漏えいが心配です

社内データを外部に学習させない設定と、扱ってよい情報の線引きを先に決めます。詳しくはClaude Codeのセキュリティ ── 企業導入時のチェックリスト10項目にまとめました。

Q. 補助金は使えますか

制度は年度で変わるため、その時点の公募要領で確認が必要です。実際に補助金を使って導入した会社もあります。診断の際にあわせてご案内します。

まとめ:今月の1アクション

今月の1アクション:外注費を1年分、紙に書き出す

事務代行、記帳、給与計算、ホームページ、広報。月額に12を掛けて足すだけです。合計が出た時点で、次に何をすべきかはかなりはっきりします。

その金額を見ながら「どこまで自社に戻せるか」を整理したい場合は、無料のAI活用診断(90分)で現状を伺い、内製に戻せる範囲と順番をお出しします。NDAを締結のうえ対応しますので、社外に出せない数字もそのままお話しください。

製造業での進め方は製造業のAI活用事例3社に、他業種を横断した事例はAI業務効率化の事例集にまとめています。

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